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2019年11月 1日 (金)

第38回定期研究会が開催されました

2019年10月26日、奈良女子大学において、第38回定期研究会が開催されました。

第1報告の林寺正俊氏「仏教文献学の視点から見た「五月一日経」と「五月十一日経」」は、「五月一日経」と「五月十一日経」の本文テキストを丹念に比較したものでした。ともに光明皇后発願の一切経で、それぞれ日付が「天平十二年五月一日」「天平十五年五月十一日」とあることから名付けられていますが、「五月十一日経」は願文に「藤三女」とあるように、光明皇后が私的な立場で書写させた一切経で、現存巻数はわずか11巻という珍しいお経です。文字の違いを経典の内容解釈を踏まえながら検討していく手法は新鮮でした。

第2報告の矢越葉子氏「写経破紙と兌廃稿」は、写経の際に経師が字を間違えたり、一行落としてしまった場合などに発生する破紙や兌廃稿の扱いについて、日本と中国とで比較したものです。経典を写し間違えて不要になった紙でも、宗教的な理由により再利用を控える様子からは、人々の信仰心の篤さをうかがうことができました。

第3報告の有富純也氏「「四十巻経」書写の意義ー天平宝字七年の道鏡牒をめぐってー」は、天平宝字七年七月に書写された「十一面神呪心経」30巻と「孔雀王呪経」1部10巻の書写の過程とその政治的意義を追究したものです。「藤原仲麻呂の乱」の前年の、道鏡牒によるこの写経事業は、孝謙上皇の看病のための写経であったと推測しています。

第4報告の森明彦氏「月借銭関連文書に関する基本的問題」は、宝亀年間の始二部写経事業からはじめられた東大寺写経所の月借銭運用(大勢の下級官人に少額の銭を高利で貸し付ける運用)の全体像を捉えようとする意欲的な報告でした。

会場にはさまざまな分野の専門家も参加され、多様な視点からの意見も出されるなど、討論も例年になく活発に行われました。また学部生や院生など、若い世代の参加が増えたことも、喜ばしいことです。

次回は、2020年10月24日(土)、奈良女子大学で開催予定です。→【中止となりました】

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