第40回定期研究会が開催されました
2022年10月29日(土)に、第40回定期研究会が開催されました。
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第1報告の井上翔氏「具注暦からみる文書行政」は、まず正倉院文書中に3点残る具注暦と各地から出土する漆紙文書として残る具注暦をもとに、官司内で利用する暦は陰陽寮の頒暦に基づいて官司内で書き写していたことを確認。また木簡の事例から、必要な箇所を抄写し、あるいは官司内で掲出していたと思しき事例を紹介し、7世紀に遡る事例もあることから、諸国に対する頒暦の開始時期についても論及しました。
第2報告の小菅真奈氏「奈良時代の本人確認について―沙弥実進度縁を中心に―」は、沙弥実進度縁(案)と延喜玄蕃寮度縁式の書式の比較を通じて、同度縁(案)が正文の正確な写しであることを確認し、その上で黒子の位置にかかる「額中上一鼻折上一」の文字が追記風に書かれている点に着目。従来の研究では戸籍や計帳からの引き写しであるとされてきた黒子記載を、度縁を授与するまさにその現場で得度者の身体的特徴を書き込んだ文字そのものを反映したものと指摘します。さらに計帳の日に本人を目の前にして身体的特徴を追記している因幡国戸籍の事例や、複数箇所の黒子を記載する奴婢見来帳の事例をもとに、黒子を記載する場やその意味について考察しました。
第3報告の森明彦氏「正倉院仮名文書乙試読」は、石山で書写された奉写大般若経の食物用帳の紙背に転用されて残る仮名文書乙について、これまでの正倉院文書研究の成果を踏まえ、石山に到来したのち上馬養の手元で保管されていた文書であるという前提で、仮名文書乙の解釈を試みました。石山寺造営については米の収納にかかる史料が欠けていることから、これまで封租米の徴収や官人の私経済の活用のように様々な観点から論じられてきましたが、新たな角度から米の入手方法を論じる内容といえます。乙文書との関連性が指摘されている甲文書の解読に加え、特異な経路によって入手した米をどのように帳簿に記載していたのか等、今後の展開に興味が尽きません。
第4報告の山口英男氏「小川八幡神社大般若経の調査概要」は、2019年度から3年間にわたって史料編纂所の特定共同研究として実施した小川八幡神社大般若経の調査成果にかかる概要報告。同大般若経には少なくとも奈良時代書写経が4種、平安時代書写経が3種含まれていることが判明していますが、今年度からの特定共同研究でも引き続き調査されることから、さらなる成果が期待されます。
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3年ぶりの会場での開催となりましたが、36名の参加を得ることができました。
次回は、2023年10月28日(土)午後、奈良市内での開催を予定しております。