第41回定期研究会が開催されました
2023年10月28日(土)に、第41回定期研究会が開催されました。
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第1報告の平山茉侑「聖武太上天皇の御葬と蓮華蔵世界往生」は、天平勝宝8歳(756)の聖武太上天皇の葬列に純金観世音菩薩像が加わっていたこと、観世音菩薩が蓮華蔵世界への往生を導く存在とされていたことから、聖武が菩薩として、みずからと民との蓮華蔵世界への往生を欣求していたと論じました。観音像が聖武の柩を先導する葬列は、地理的に東大寺大仏へ向かうことになり、聖武の蓮華蔵世界への往生を視覚化する演出であったとする指摘は、東大寺を会場に開催された今回の研究会参加者として、目に浮かぶような実感を覚えました。
第2報告の佐々田悠「聖語蔵の成立について—近年の調査から―」は、今年3月に公表された経蔵「聖語蔵」にかかる調査成果(清水真一ほか「正倉院聖語蔵(旧尊勝院経蔵)調査報告」、星野安治「正倉院聖語蔵(旧尊勝院経蔵)の年輪年代」『正倉院紀要』第45号)を踏まえて、この新たな知見を紹介するとともに、経蔵としての聖語蔵、および経巻群としての聖語蔵の成立を史料から跡付けるものです。正倉院文書とのかかわりでは、現在の聖語蔵経巻に至る経巻群のいくつかの移動ルートが示されたことに加え、その過程で失われた奈良朝写経を補うために新たに書写・収集された経巻が乙種写経ではないかという指摘に興味を惹かれます。
第3報告の栄原永遠男・渡部陽子・濱道孝尚「Shada(シャダ、写経所文書データベース)の作成とその経過」は、今年5月に公開された正倉院文書の新たなデータベースShada(https://www.lit.osaka-cu.ac.jp/new-departure/project-shada/)の概要を紹介し、使用方法をデモンストレーションを通じて示しました。先行するSOMODAで採用した「短冊」単位での史料把握に加えて、個別写経事業研究の成果に基づき、その史料を形成した写経事業を明示する点が特徴です。今後も整備を進めていくとのことですが、Shadaを活用することで、その史料が属する個別写経事業や関連史料がたちどころに判明する点で画期的といえます。
第4報告の山口英男「『正倉院文書目録』第9冊編纂トピック」は、今年3月に公刊された『正倉院文書目録』第9冊(続々修4(第13~16帙))の紹介を兼ねて、原本調査によって判明した新たな知見を個別に取り上げました。第15帙第4巻②(7)裏~(5)裏では裏うつりした文字から新たな釈文が判明し、また裏面の糊跡から判明したもともとは器物に貼付されていた文書(第16帙第2巻・第7巻)の存在など、原本の観察によってしか知りえない情報を共有することは新たな研究の視角をもたらすことでしょう。
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今年は正倉院展も賑わいをとり戻していましたが、研究会の参加者も38名と盛況でした。
次回は、2024年11月2日(土)午後、奈良市内での開催を予定しております。
※例年より1週間遅い開催です。お間違いのないように。